バルカンを知るための66章【第2版】 (エリア・スタディーズ48)

2005年に出た初版を改訂し、2016年に出版された「第2版」がこの本。新しい分、例えば2015年の欧州の難民危機とバルカン諸国の関わり等の最近のトピックも盛り込まれている。「初版」もまだ市場には流通しているようだが、一般的にはこの「第2版」の方をお薦めしたい。現存する個別の国家を題材とした巻が多くを占める「エリア・スタディーズ」だが、中にはある地域エリアを横断的にとり上げた巻もあって独自の面白さを放っている。本書もその一つ。「バルカン半島の国々」では無く「バルカン」という雑駁なタイトルになっているが、実際に読んでみると納得がいく。編者の柴氏が「はじめに」で編集の方針として「国別のトピックスの束にしない」「地域としてのバルカンに共通する面を積極的に描く」「比較の視点を重視する」事をあげられているが、まさにそのように本書は書かれている。したがって、この地域に現存する個別の国ごとの情報をまとめた内容では無いので、その点は読み手の「ニーズ」によって評価が分かれる可能性はある。歴史、地理、社会、言語、食文化等々の項目別に情報が整理されていて非常に読みやすく、また「観光」のみを切り口とした書籍では中々得られない貴重、有益な情報が多いという点は「国別」の巻と変わらず、読み物としても非常に面白い。尚、書き手が共通している事もあってか、既存の国別の巻（「セルビア」や「ルーマニア」等）と内容的にダブりが見られる項目もあるが、それは止むを得ないだろう。ただ、「横断的」な記述、情報が多い分、このエリアに関する基礎知識の乏しい方にはややハードルが高めの書かもしれない。例えば、現存の「マケドニア共和国」が、歴史や文化上の「マケドニア」とはピッタリ一致しておらず、それゆえギリシャやブルガリアとの軋轢を生んでいる訳だが、全く読者が知識を持っていないと、その種の問題（バルカン地域には非常に多い）がピンと来ない事は考えられる。非常に面白く、おススメ出来る好著であるが、この地域の歴史や地理に関する基礎的な知識を持った方向けの1冊だろう。