水俣病事件40年

水俣病公式発見40周年の節目を記念する労作。水俣病は今も激動を続けている。また、『藪の中』のように、語る人によって水俣病問題は大きく変わる。どこに「客観的事実があるかわからない」。記録に残らず、闇に葬られていることも多い。「客観的事実」として証明できないことは想像で補うしか手だてがない。著者は「このようなやりとりがあったに違いない」と言った表現で、できる限り生々しく水俣病の歴史を描き出そうと試みる。「事実」と「想像」がまぜこぜになっているので、読むときは注意を要する。しかし、歴史小説を読むように、著者の想像の世界と語り口に引き込まれて、分厚い本を一気に読ませる力がある。著者が、危険を冒して想像をたくましくしたのは、水俣病の「広義の加害者」としての企業、行政、科学者などに対する強い憤りであろう。ジャーナリストとしての反省もあるかもしれない。本書に対しては、いろいろな批判もあるだろうが、「水俣病」を産んだ社会システムの中で、行政や科学者の責任を強く追及した資料としての価値がある。患者さんの運動は比較的資料を得やすいが、行政や企業の裏側の「真実」は、裏付けがきわめて難しく、想像力で補わざるを得ない点も理解できる。水俣病を知る上で、読んでおきたい基本文献の一つであることは間違いない。