週刊 マンガ世界の偉人 2013年 6/23号 [分冊百科]

朝日新聞出版「週刊マンガ世界の偉人」からトルストイ編登場。トルストイは言わずと知れたロシアの大文豪だが、子供にはあまり馴染みがなくテーマとして難しいのか、子供向け偉人伝に取り上げられることがほとんどないが、この度「週刊マンガ世界の偉人」で採用されたのは非常に興味深い。表紙は書斎で執筆中のトルストイの様子である。「メリーノ!」は、ママ上様がロシア料理を作りビーフストロガノフの言い間違いやメリーノとヨーイチ・マミのケンカからトルストイへつながっていくものとなっている。「物語のはじめに」のキャッチコピーは「「生きる意味」を問い続けた文豪」とあり、右ページにはトルストイの肖像と岩波文庫トルストイ著作各種・左ページには青年時代のトルストイとロシア農民姿のトルストイの対比が掲載されている。本題のマンガは、トルストイの三女でありトルストイのただ一人の見方であった三女アレクサンドラの視点で描かれている。妻ソフィヤをはじめ家族からは貴族なのに農作業をするトルストイを理解できないこと・「仲介者」への苛立ちをアレクサンドラは理解できずにいる。そんなアレクサンドラに使用人やトルストイ自身が農作業・自然・生きる意味について語る。この本には書かれてないが、史実ではトルストイ自身が熱心だった「老子」に繋がることを意識せずにはいられない部分だ。次に1891年のロシア大飢饉救済エピソードや、駅のホームで出向かえられたトルストイを見てるソフィヤの思いに内心「違う」と思っているアレクサンドラ・破門や発禁にもめげずに外ではトルストイ共感者が増えるのに家族内では孤立しトルストイ家は崩壊状態へと続き、そして1910年10月28日未明のトルストイの家出とアレクサンドラとの別れ、という流れになっている。「人物ガイド」では、「作家としての成功と地主としての挫折」のキャッチコピーで、名門地主貴族の子としての出生と青年時代のすったもんだの挫折の連続・「戦争と平和」での名声と「トルストイ主義」になる過程・家出の最期が記載されている。作家・地主としてのトルストイだけでなく、教育者・若き日の軍人姿・書斎を要としたトルストイの一日・（レーピン画の）農作業姿・子だくさんの家族写真・トルストイ主義の概略・ソフィヤは悪妻か・アスターポボ駅での死の様子も掲載されている。波乱万丈の人生を送ってきたトルストイについて、非常に難しいものでもあるが、子供でも理解できるようにできる限り「分かりやすく」まとめられるのは評価できる。その一方で詳細の省略もところどころ見られ、やはり「トルストイ」というのはその名声とは反対に「難しい人物」と考えさせられる。続いて、「たった2ページで「戦争と平和」がわかる」のページがあり、「戦争と平和」の時代背景と超大まかなあらすじが右ページに、アンドレイ・ナターシャ・ピエール・カラターエフ・エレン・ナポレオン・クトゥーゾフといった主要人物おさえに、「長編大作を楽しむコツ」が左ページにある。「長編大作を楽しむコツ」として、1：まずは映画やマンガでチェック・2：登場人物リストをつくる!・3：好きな登場人物になりきる!と書かれている。「メリーノ!」の結末は、メリーノが次期王として「戦争と平和」読破に挑むのの一ページも読めずに挫折というオチだ。ママ上様のコメントも見逃せない。「トルストイをもっと知ろう」では、「トルストイの散歩道全5巻（1：人は何で生きるか・2：イワンの馬鹿・3：人には沢山の土地がいるか・4：二老人・5：愛あるところに神あり）」（北御門二郎訳・あすなろ書房）・「学研まんが世界の歴史13第一次世界大戦・ロシア革命と国際連盟の誕生」（学研教育出版）の2つが紹介されている。一方で、トルストイの伝記や主なトルストイの名作が掲載されていないのは、やはり子供には「難しすぎる」ためなのだろうか。「週刊マンガ世界の偉人スペシャルポストカード20」は、表紙絵の執筆姿のトルストイと、ベッドに横たわっている「戦争と平和」のヒロインナターシャの2種が採用されている。今回のトルストイ編を評価する点としては、1：日付が当時のロシアで使われていたユリウス暦で記載されていること・2：17ページの「豆知識」のアレクサンドラの1929年日本訪問とその後のアメリカ亡命の生涯があること・3：トルストイ主義の非暴力がガンジーに大きな影響を与えたことが30ページにきちんと記されていること・4：幼くして両親を亡くし叔母に育てられ結婚後も子供の死が相次ぎ「死」の意識を強く持っていたこと、だ。一方で、前述のように、もともとが非常に難しい人物が故の描かれ方・構成の苦労や、マンガのトルストイ自身が実のトルストイの写真と全然似てない・軍人としてカフカス（チェチェン）征伐とコサックへの憧れや後のトルストイに大きな影響を与えたクリミア戦争従軍の記載がない・という次第点もある。（クリミア戦争従軍の文字はないものの「戦争の痛ましさを鋭く描いた「5月のセバストポリ」」の文字はある）。今回のトルストイだけにとどまらないが、この「週刊マンガ世界の偉人」シリーズは、2004年から2005年にかけて刊行されたデアゴスティーニ・ジャパン「週刊100人」が巻末にある「参考資料」として頻繁に用いられているのが分かる。「週刊100人」は大人向けだが非常に分かりやすく面白いシリーズであり、「週刊マンガ世界の偉人」の参考資料として非常に使いやすいためだと思われる。「週刊100人」を読んだことのある人・持っている人は、是非とも「週刊マンガ世界の偉人」と「週刊100人」を併せて読んでみることをお勧めする。