大島渚の時代

この本は、いってみれば大島という作家が残した作品による戦後史であって、タレント本モドキの情けない《作家論》ではない。正確にいえば、小野沢がインディペンデントのフィルムメーカーのひとりとして、大島作品から何を学び取ったか、であり、また、これから作品を作ろうと志す者は何を継承すべきなのかを語る本でもある。タレント本モドキの情けない《作家論》ではない、というのは要するに、この本は批評ではあるが、鑑賞のためのガイドブックではないということだ。《批評》と《鑑賞》は似て非なるものである。「映画芸術」の大島追悼特集で高橋洋は、失敗作であるがゆえに可能性（ヒント）が埋め込まれている作品として「天草四郎時貞」を論じたが、小野沢もこの本で同様の理由で「青春の碑」を論じている。失敗した作品は本来ならば何を目指さなければならなかったのか、ありえたかもしれないもうひとつの作品像を描くことで、過去の遺物を未来によみがえらせることも批評の仕事である。大島は《企業の映画から作家の映画へ》の時代に運動の作家として出現し、《作家の映画から運動の映画へ》の時代になると逆行するように作家化した、奇妙な作家で、この本でも70年代以降の作品にはあまりページを割いていない。そこらへんももうちょっとつっこんで論じてほしかった気もする。